Vol.04陸上[前編]

酒井雷熙さん(14)千葉県柏市立田中中学校 陸上部所属美恵さん

水を得た魚のように才能を開花させている選手がいます。酒井雷熙(らいき)さんは、野球から陸上に転向してすぐ、幅跳びの世界で頭角を現し始めました。現在までの自己ベストは6m41cm。千葉県代表として二年連続でジュニアオリンピックに選出されたシンデレラボーイです。まだ中学生。稀代のバネを持つ肉体は健やかに成長し、記録はすぐに更新されていくでしょう。競技場で自主練習をする、ある日のお弁当を取材させてもらいました。

本当に好きなことをやると、子どもは変わる。

雷熙(らいき)は、子どもの頃から活発でじっとしていられないタイプでした。他の子たちと公園で一緒に遊んでいても、みんなが飽きておやつを食べ始めているのに、雷熙だけは戻ってこない。ずっと走り回っているんです。土日は家族で1日中鬼ごっこしていましたね。その効果もあったのかしら、水泳以外の運動はなんでも卒なくこなせるみたい。スポーツテストも満点だったそうで、先生から驚かれたこともあります。私たち夫婦はこれといったスポーツ経験があるわけじゃないんですけどね、不思議です。

陸上を始める前は野球をやっていました。少年野球時代は一番バッター。陸上に専念するために辞めることになって、そのときは「もったいないなぁ」と思っていたんですよ。でも、いま陸上に夢中になっている姿を見ていると、彼の選択は間違ってなかったんだなと思います。だって、野球ノートは「やばい!書いてない」と毎朝焦ってやってましたが、陸上ノートは誰に見せるわけでもないのに書いてますから(笑)。スパイクもいつもピカピカにしているし、親がなにも言わなくても、好きなことは自分からやるんだなと感じています。

陸上は外で行ううえに薄着になる。寒い季節は、スープジャーに熱々のスープを入れて持参する。
この日はミネストローネ

メッセージ弁当に想いを託す。

お弁当は記録会や県大会のときに持たせます。主に春夏のシーズン中、週1回か2回ほどでしょうか。普段は給食なので、「ここぞ!」というときのお弁当です。気をつけているのは、色とりどりにすること。そのほうが栄養のバランスもよくなるし、見た目も楽しくて食欲がわくかなと思って。お砂糖たっぷりの甘い卵焼きが好きみたいで、よく入れます。それから、今回もそうですが、肌寒い時期にはスープも持っていかせます。外での競技ですから、温かいものを食べさせられるのはいいですね。

雷熙は好き嫌いがあまりないのでお弁当作りもそんなに大変ではないですよ。食欲も安定していてあまりブレない。陸上は瞬発力が必要なので、タンパク質やミネラルが不足しないように大豆やひじき、豚肉などを意識して食卓に出していますが、試合の前は身体が重くならないように本人がコントロールしています。

ご飯のメッセージですか? 恥ずかしいんですがよくやってます。今回は「らいきファイト!」ですが、「らいさん、おつ!」とか(笑)。最初はいたずらでやったんですけど、意外と評判がいいんですよね。

「雷熙のいたずら好きなところはわたしに似てるかも」と茶目っ気たっぷりに笑う美恵さん。何でも言い合えるいい関係は、お母さんの飾らない人柄ゆえ

いつまでも輝く君を見ていたい。

部活をして学校から帰ってきたあとも、まだまだ走り足らないという感じなんですよ。夕飯のあと家の前で自主練しているんですが、「ツタタ、ツタタ」と幅跳びの助走練習をしている音が聞こえてきます。

野球から転向して陸上を始めて、いまは伸び盛り。きっとすごく充実していて楽しいんだと思います。でも、これまで順調に行きすぎているから、そこだけが心配。このあと壁にぶつかったときに乗り越えられるメンタルを養っていって欲しいな。選手として1日も長く活躍してくれたらいいなと思うけれど、競技を辞めたあとも好きなことを続けていってくれたらと思っています。

雷熙はいいことも悪いこともお腹に貯めずに、ストレートに表現してくれるタイプ。機嫌が悪いときは放っておけば、自分で解決してケロっとしています。だから、わたしもストレートに応援していきたいですね。競技場でフタを開けたときに、「お母さん応援してるよ!」という気持ちが伝わるお弁当を、これからも作っていきたいです。

休みの日には、近くの競技場で自主練することも。兄と一緒に陸上を始めた、弟の風我さんはもちろんのことお父さんも幅跳びの練習をしているという

※2017年2月 公開