THERMOS

Talk & Talk

海を越える
ものづくりの精神。

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開発部/ゼネラルマネージャー 大塚さん

日本で企画・開発されたサーモス製品は、その多くが現在、マレーシアや中国にある生産拠点でつくられている。今や日本製と同等の品質を持つようになったアジア発のサーモス製品は、どのようなドラマの末に生まれてきたのだろうか。サーモスに入社以来、一貫して海外工場の立ち上げに尽力してきた、一人の技術者の目を通し、その軌跡を追いかけてみたい。

台湾、マレーシア、中国と渡り歩いた二十数年。

サーモス開発部ゼネラルマネージャーの大塚栄二が、現在のサーモスの母体であった日本酸素(現大陽日酸)に入社したのは、バブル経済も始まっていない1984年のことだった。大学で化学工学を専攻した大塚は、入社当時、プラントの仕事に就くものだと考えていた。ところが実際に配属されたのは、魔法瓶部開発グループ。しかも1988年には、早くも台湾で最初の海外赴任を経験することになる。これが、大塚と海外工場との長いつきあいの始まりとなった。「大学の教授にアドバイスされたんですよ。面接に行ったら『製造現場で働きたい』といっておけって。で、その通りにしたら、結局二十数年も工場で働くことになってしまいました」と、大塚は笑う。

Top Thermo Mfg./マレーシア

マレーシア工場にて

初出荷の瞬間は、わが子を得たような喜び。

台湾で、魔法瓶製造を始めた協力会社をサポートした後、その実績を買われた大塚は1993年、サーモス初の海外生産拠点となるマレーシア工場立ち上げに携わることになった。

初めての海外工場の立ち上げは、試行錯誤の連続だった。まず、立地場所の選定から始まり、新会社の設立、土地の購入、工場設計・建築や機械設備の発注、製造に先だっての規定・基準類、標準書の準備など、日本でも大変な業務を、法律もお国柄も違う異国で行わなければならない。ハコモノだけではない。工場はそこで働く人がいてこそ機能するもの。人材の採用や育成、製造部門や管理部門など組織の立ち上げもまた重要な仕事だ。異文化の中、組織内の方針のすりあわせ、部下とのコミュニケーションには相当な苦労があったという。

新潟事業所/大型自動倉庫

サーモス製品を待つお客様のため、中国で増産体制へ。

膳魔師(中國)家庭制品有限公司

続いて大塚が向かったのは、成長著しい中国。ここで2003年から、より大規模な中国工場の立ち上げに挑むことになる。この時期はサーモス製品の増産が続いていた時期で、大塚には仕事に追われる厳しい毎日が待っていた。「連日帰宅が深夜に及び、ドライバーが寝不足でうとうとするほどでした。仕方なく家族と暮らす上海を離れ、工場近くにアパートを借りることになりました」一家で赴任した国の中で、よもやの単身赴任。今でこそ笑い話だが、海外生活では何が起こるかわからない。

膳魔師(中國)家庭制品有限公司

また、おおらかなマレー人と異なり、バイタリティ溢れる中国人スタッフとの丁々発止のやりとりには、さすがの大塚も手を焼いたという。「日本人のように単純にあれをしろ、これをしろではダメなんです。仕事の持つ意味を考えさせ、納得した上でないと彼らは動いてくれない。そういう所はやはり、それぞれの国の文化や考え方を尊重しないとうまくいかないと思いますね」と、大塚は述懐する。

それぞれの国に、それぞれのものづくり精神を。

こうした海外工場に、大塚は、どのようにものづくりの精神を持ち込んでいったのか。「ものづくりについては、日本人の考え方や技術は世界トップクラスだと思います」と、前置きしながら大塚はいう。「とはいえ、海外の人たちに日本のやり方を押し付けても理解してはもらえません。当たり前ですが、作業の中でやるべきことを明確にし、決められたことを守ってもらうことが、品質を高める上でもっとも大切なことです」大げさな精神論ではなく、誠実な取り組み、愚直な繰り返しこそが、ものづくりにとっては何より重要なことなのだ。

また、アジアにおけるサーモス製品の知名度は、日本以上に高い。そのことも工場スタッフのモチベーションを高める上で、プラスに影響したという。「サーモスブランドとして下手なものは出せない、マレーシアや中国で、世界で一番品質のいいものをつくろう、世界一の工場にしようというプライドは、地元スタッフにもありましたね」

仲間と共に、今も目指し続ける“世界一”の工場。

サーモスの海外工場は、ISO9001、ISO14001をはじめとする品質認証を数多く取得している。また、下請けではなくグループ会社であるため、日本のお客様の要望をすぐにフィードバックする体制も整っているという。「そういう意味では、日本的なものづくりのできる工場であり、厳しい目を持つ日本のお客様にも、安心してお使いいただける製品をご提供できると考えています」大塚の言葉からは、半生を捧げてきた仲間である海外工場の、品質に対する強い自負が感じられる。

そんな大塚の海外生活も二十数年、マレーシアで授かった娘も、もうすぐ高校を卒業する。一緒にゴルフでコースを廻るのが夢だという大塚だが、仕事でもまだまだ夢は尽きない。「サーモスの真空断熱技術で、魔法瓶以外の広い市場に挑戦していきたいですね」そのために、後進の育成にも取り組みたいという。「今は技術が縦割りになり、エンジニアの視野が狭くなりがちです。そんな時代だからこそ、ものづくりの全体像を見て、グローバルな発想ができるエンジニアを育ててみたいですね」世界とがっぷり四つに組んできた大塚の目には、サーモスの、ものづくりのどんな未来が見えているのだろう。