【一田憲子さんエッセイ】さらっぴんの自分になれる朝

【一田憲子さんエッセイ】さらっぴんの自分になれる朝

一段と冷える冬の朝。ぬくぬくのベッドから起き上がるのはちょっぴり気合いが必要だけど……。編集者・ライターの一田憲子さんによる「冬の朝」をテーマにしたショートエッセイをお届けします。

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冬の朝は日の出が遅くて、5時に起きるとまだ外は真っ暗です。

我が家は、夕飯後に洗った食器をひと晩食卓の上で乾かすので、リビングには、昨日寝る前とまったく同じ風景が広がっています。

そんな部屋を寝ぼけ眼で眺めながら、まずはバスルームへ。ちゃぽんと湯船にからだを沈めると、温かいお湯と湯気に包まれて、思わず「はあ〜」と声が出ます。

早起きが大の苦手だった私が、朝5時に起きられるようになったのは、この半身浴がきっかけでした。

20代から30代の頃、「よし、明日こそ早く起きるぞ」と決心するのに、ハッと目覚めると8時や9時。やっぱり私ってダメだよなあと落ち込んだものです。

でも、意志の力ではできなかったことが、ちゃぽんとお湯に入って、からだが気持ち良ければできるようになる……。それは、大きな発見でした。

お風呂から上がると、パチっと目覚めるようになりました。

40歳を過ぎた頃から、夕飯を終えると眠くなり、夜に原稿を書くことができなくなりました。そこで、夜はさっさと寝て、早起きをしてみることに。

夜、眠気と戦いながら2時間かけて書いた原稿を、朝読み返してみると、まったくダメダメでがっかりすることがあります。

そして朝、もう一度書き直してみると、30分ほどでささっと書けてしまい、「朝」の持つ力に驚きました。

「寝る」ということは、からだとこころを一旦シャットダウンすること。

絶えず動き続けている頭や神経やこころのシャッターをガラガラとおろし、お休みする……。この時間が、とても大事だと知りました。

すべてをゼロに戻し、起きたてのまっさらな自分になった朝は、自分のパフォーマンスがいちばん上がる時間です。

「頑張って」何かをしようとするよりも、自分の状態がいちばんいいときに、やりたいことをやる、という方がずっと効率がいいよう。

お風呂から上がったら、ストレッチと筋トレを。パーソナルトレーナーのコーチについて、ゆっくりとからだを動かす「スロトレ」を習ったら、体重がするすると4キロ落ち、以来毎朝15分ほど続けています。これが終わる頃、やっと外がしらじらと明るくなってきます。

カーテンを開けると、そこに「朝」がある……。
毎日そのことに感動します。

き〜んと冷えた空気の中、空が群青色から少しずつ明るくなってきます。

闇から朝になる瞬間に立ち会えることは、自分がピカピカの新品に生まれ変わっているような実感をプレゼントしてもらっているようで、うれしくなります。

家中のカーテンを開け終わったら、鉄瓶に水を入れ、火にかけます。

まずは白湯を1杯。からだの内側を洗い流すような気分で少しずつすすります。
その後、ポットにお茶をつめておきます。

その時々でマイブームのお茶が変わり、以前ははとむぎ茶を。今は「一保堂」の炒り番茶を。スモーキーな独特の香りがするこのお茶は、その匂いがあまりに強いので、買いに行くと、店員さんが店頭ではなくバックヤードに取りに行ってくれます。

家で原稿を書いているときには、絶えず手元に温かい飲みものがあります。

出張先のホテルでお茶がないと、なぜか落ち着かなくて、原稿がちっともはかどりませんでした。以来必ず家からティーバッグなどお気に入りのお茶を持っていくようになりました。

2時間ほど原稿を書いた後は、フルーツだけの朝食を取ります。朝食の後は、今度は別のポットにコーヒーをたてます。ここから12時までの間、コーヒーとお茶を交互に飲みながら仕事をします。

どうやら、温かい飲みものは、私にとって原稿を書く時間の「息継ぎ」の役目を果たしてくれているようです。

パソコンの前を離れて休憩、とまではいかなくても、書いた原稿を眺めながら、マグカップを手に文章を読み返したり、書くことに行き詰まったら、ちょっとお茶を口に含んだり……。

そうやって、少し「息継ぎ」をすることで、また淡々と書き続けることができる……。

若い頃は、どこかへ出かけて行って、新しいものを知り、刺激を受けて、自分をステップアップさせることが楽しくてたまりませんでした。昨日とは違う今日の可能性を知ることにワクワクしたもの……。

でも、歳を重ねた今、もう少し静かに過ごしてみたくなりました。

自分のこころがいちばん澄み切って、頭がクリアに冴えている状態にしておきたい。

そうして、何かを感じ、考え、それを文章で紡ぎ出したい。

さらっぴんの自分になれる朝と、すう〜っと息継ぎができるお茶の時間は、からだとこころと頭を繋ぐ管を、きれいに磨くひとときなのかもしれないと思います。 

<一田さんのお気に入り>

編集:ノオト

一田憲子

一田憲子

いちだ・のりこ

OLを経て編集プロダクションに転職後フリーライターとして女性誌、単行本の執筆などを手がける。 2006年、企画から編集、執筆までを手がける『暮らしのおへそ』を2011年『大人になったら着たい服』を(共に主婦と生活社)立ち上げる。 そのほか、『天然生活』『暮らしのまんなか』『クレア』『LEE』などで執筆。 全国を飛び回り取材を行っている。近著に『ムカついても、やっぱり夫婦で生きていく』(エムディエヌコーポレーション)。
外の音、内の香ページ:https://ichidanoriko.com/

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