話そう、聞こう、もっと気楽に。雑談のプロ・桜林直子さんに、心をほぐすヒントをもらう

マスクをはずして顔を合わせるコミュニケーションが戻ってきてうれしい反面、なにを話そう? どうやって話せばいいんだっけ? など、小さく悩みを持ったり、一人で考えこんだりしている人も、きっと少なくないはず。コロナを経て、また新生活に慣れてきた今だからこそ考えたい、テーマを定めない気楽な会話=雑談の魅力とは? ポッドキャスト番組『となりの雑談』も好調な「雑談の人」こと桜林直子さんに、心をゆるめる気軽な会話の楽しさについて聞いてみました。

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桜林直子(さくらばやし・なおこ)

桜林直子

さくらばやし・なおこ

1978年、東京都生まれ。洋菓子業界で12年の会社員を経て、2011年に独立。クッキー屋「SAC about cookies」を開店する。noteで発表したエッセイが注目を集め、『セブンルール』(カンテレ・フジテレビ系列)に出演。著書『世界は夢組と叶え組でできている』(ダイヤモンド社)では、ユニークな視点から働き方・生き方についてのヒントを提案している。現在は「雑談の人」という看板を掲げて、雑談サービス「サクちゃん聞いて」を主催。コラムニストのジェーン・スーさんとのポッドキャスト番組『となりの雑談』も好評配信中。

「雑談」という言葉にあなたはどんな印象を持っていますか?

あってもいいけど、なくてもまあ困らない。ほとんどの人は「雑談」をきっとそんな風に考えているはず。「いや、そもそも雑談について考えたことなんてない」という人も多数派でしょう。

そんな「雑談」をお仕事に変えてしまった人がいます。

桜林直子さんの現在の肩書きは「雑談の人」。コロナ禍に入る少し前から有償の雑談サービス「サクちゃん聞いて」をスタートさせ、利用者数はのべ1200人超に。現在はジェーン・スーさんとのポッドキャスト番組『となりの雑談』も大人気です。

テキストコミュニケーションが激増した今の時代に、あえて雑談に目を向けたのはなぜでしょう? サクちゃん、教えてください!

桜林さん
「会話ってキャッチボールによく例えられるじゃないですか? 相手が取りやすい言葉を投げて、相手の言葉はちゃんとキャッチしましょう、みたいな。私、あれが苦手なんですよ(笑)。

私の思う雑談は、2人がテーブルに出し合って、置かれたものを一緒に眺めているようなイメージ。上手く切り返さなきゃとか、相手の発言は全部拾わなきゃとか、そういう余計なことは考えなくていいんですよ。

自分が話して、相手も話して、それで出てきたものを並べて『これってなんだろね?』『わかんないね』『こういうことかなぁ』と一緒に考えてみる。そこには、ルールも定義もない。

でも、そういうことをできる場が実はあんまりないのかなぁと思って始めたのが、雑談企画『サクちゃん聞いて』でした」

▲きっかけは、友人たちからの「サクちゃんと話した後ってスッキリする!」「なんかやる気出た」という言葉だったそうです

「サクちゃん聞いて」は、桜林さんと申し込み者が90分マンツーマンで雑談をするというもの。月1回ほどのペースで全5回の雑談を行います。話したいテーマは参加者が自分で決めてよし。直接的な悩みや問題を解決する場ではなく、生産性がひとつもない時間に使うのも大歓迎なんだとか。

申し込んでくる人のほとんどがnoteやSNS、メディアで「サクちゃん」を知った人だそうです。

桜林さん
「普段は聞き役に回ってしまう、という人も多いです。自分が話をできる場がない、友達にもつい遠慮してしまう、でもカウンセリングに行くほど悩みがあるわけじゃない、という人も多いかも。

みなさんには『用意は何もいらないので、正直さだけ持ってきてください』といつも伝えています。 とにかく正直に、どんなことでも、安心して話してほしいので。私によく思われようとか、私と同じくらいの分量で話そうとか、そういうことを一切気にしないでほしい。

テーマもルールも無駄なサービス精神もなしで、ただ思いっきり話してみる。するとちゃんと『自分』が出てくるから。 そこが雑談の面白さだし、みんながどんどん話したほうがいいと思います。

私自身もおしゃべりが異様に好きだし、会社員をしているときもクッキー屋を経営していた頃も、社員の愚痴を聞いたり悩みの問題解決をする役回りを常にしていました。

それならコーチングを学んだほうがいいのかな? と思って勉強してみたのですが、勉強するほど『これじゃない』感が強まってしまった。コーチングという型にはめることで、できることの幅を狭めてしまうなと思ったんです。

カウンセリングについても調べてみたんですが、場合によっては医療方面にまで関わってくる領域なので、私にはそこまで背負えない。『サクちゃん聞いて』は、あくまでも雑談の場です」

桜林さん
「例えば、『恋人の束縛がひどい』という話に、『じゃあ別れたら?』って言ったらもうそこで終わりですよね。相手は言いたいことを引っ込めて、他の人に話すはず。でも本当は、別れたくない理由がきっとあるんじゃないかな。私だったら、その人の中にある矛盾や、そう思う理由を、もっと知りたいなと思って話を聞きますね」

必要な情報をなるべく簡潔に伝えることがスマートとされるテキストコミュニケーション全盛の今の時代、目的もさしたる意味もない雑談は、その真逆を行くような行為かもしれません。それでも、ふとしたときに「なんとなく誰かに話したいな」と思い立つような欲求はきっと誰もが持っているはず。「安心して正直に話せる場や相手」は、いつの時代であっても多くの人が求めているものなのかもしれません。

気楽に、気軽に、話したい人とはどんどん雑談しよう。ジェーン・スーさんと一緒にやっているポッドキャスト番組『となりの雑談』も、そのきっかけのひとつになれたらとサクちゃんは密かに思っているそうです。

桜林さん
「私とスーさんの公開おしゃべりを聞いて、『自分もそう』とか『このことについて誰かと話したい!』とか、そういうことをリスナーさんに思ってもらえたらすごくいいよね、といつもスーさんと話していますね。

あと、雑談は自分の心のメンテナンスにもなるんです。ボディメンテナンスのための整体って月1ペースで定期的に通うと、『今月はここがちょっと硬くなってますね』とか言われるじゃないですか? そう言われてみると『最近仕事が忙しかったから肩が凝ってたな』と気づける。

これと同じで、『こないだ話したこのことなんだけど、今はこう思う』『あのことでずっと悩んでいたけど、今気づいたら悩みが軽くなってたな』みたいな変化、自分の思考や感情にも波がわかることもある。気楽に話すからこそ、変化に気づける瞬間がありますよね。

ひとりでずっと内省しているだけだと思い込みが固定化されやすいけど、雑談で思い込みが剥がれて、ちょっと楽になれることが結構あるんじゃないかな」

なんでもない雑談だからこそ、心がほぐれる。心がほぐれるからこそ、ふと気づけることもある。それが雑談の効用のひとつといえるかもしれません。

とはいえ、気持ちや考えを、言葉にするのが下手だから、話すことも苦手と感じてしまう人も少なくないはず。しかし、「そう思いこんでいる人こそ、話したほうがいい」とサクちゃんは言います。

雑談が上手になるコツって、あるのでしょうか?

桜林さん
相手を信用して、話す。これが一番大事な気がします。 物事がねじれちゃうときって、大体が相手を信用していないときなんですよ。『本当はこう思われてるんじゃないか?』とか余計な想像が働いてしまうと、正直な言葉も出てこなくなる。

実際、ほとんどの場合、自分が正直さを出したら、相手も正直さを返してくれるんですよ。出しても受け取ってくれない人なのであれば、その人とは別に仲良くならなくていいじゃないですか。

雑談は、この人と仲良くなりたいな、と思える相手とだけすればいいんですから(笑)

桜林さん
「雑談をしている最中に『なんか、うまく言えなくてすみません』みたいなことを言う人、いますよね。そんなこと全然気にしなくていいのに。言葉や話の内容だけじゃない部分からも、伝わっていることっていっぱいありますから。むしろ『うまく言えてたまるかよ!』って伝えたい(笑)

それに、ぴったりな言葉をもっていなくて、うまく言えないっていう経験もしたらいいと思います


雑談は楽しい。だからもっと気楽に、正直に、目の前の仲良くなりたい人と話してみよう。サクちゃんの話を聞いていると、そんな風に思えてきます。

桜林さん
「繰り返しますけど、雑談って誰とでも上手できるようになんて、ならなくていいんですよ。身近にいる、仲良くなりたい人とだけすればいいこと。言葉が下手でも足りなくても、相手を信用して正直に思っていることを出せば、相手があなたと一緒に考えてくれるかもしれませんよ」

雑談はその名の通り、雑多なおしゃべりの時間。顔と顔を合わせて雑談ができる機会が再び戻ってきた今だからこそ、肩の力を抜いて、そんなリラックスできる雑談の時間の豊かさを見直してみませんか?

ライター:阿部花恵
撮影:小野奈那子
編集:ノオト

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