【わたしの⼀⽫vol.3】宇藤えみさんの「⻨味噌の味噌汁」

きっと誰もが持っている「スープ」にまつわる何気ない思い出。ときにうれしく、ときに切なく。わたしたちはいつだって、⾷べものに⽀えられているのかもしれない。今回はスタイリストの宇藤えみさんに、ある⼀⽫にまつわる記憶を綴っていただきます。

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「ばぁ〜ちゃ〜ん!!」 いつも家中が出汁のいい香りでいっぱいの祖母の家。
タタタタタタタ……と野菜を刻む音につられて、わたしが真っ先に向かうのは台所だ。

「お手伝いするよ〜」と言いながら、お腹が空いたわたしのお目当ては“いりこ”をつまみ食いすることだった。立派ないりこを適当に取り、頭やわたを取らず、そのまま沸騰したお湯に入れて出汁をとるのが、ばぁちゃんの味噌汁。

裏の畑から採ってきた野菜を加えたら、麹から丁寧に作られたばぁちゃん手作りの麦味噌を漉し器も使わずお玉でそのまま溶かし、仕上げには採れたてのネギをたっぷり入れる。いりこも一緒に食べるばぁちゃんの味噌汁は、つぶつぶの麹がたっぷり入っていて甘い。でも、いりこのわたに当たるとちょっぴり苦かった。

一方、ばぁちゃんと違って几帳面な母。味噌汁の具材となる野菜は均一に切りそろえられ、出汁をとったいりこは丁寧にすくいとられる。漉し器を使って味噌を溶いていたので、母の味噌汁は滑らかで最後まで甘い。当たり前にそばにあったいつもの味。

そういえば、はじめて母と一緒に作った料理も味噌汁だった。おいしくできたという喜びと、みんなから褒めてもらえて、心もおなかも満たされた記憶がある。

ばぁちゃんの味噌汁と母の味噌汁は、作り方は違うのになぜかいつも同じ味がした。子どものわたしは、それが不思議でならなかった。

故郷を離れたいま、いつもの手作り麦味噌が送られてくると、変わらぬ優しい甘さと懐かしい香りが愛媛の記憶を呼び覚まし、それだけで時に励まされたりもする。

わたしも母となり、ばぁちゃんと母の味噌汁が同じ味に感じたのは、孫や子を思う愛情たっぷりの気持ちが隠し味だったのかもしれないと思う。気持ちのこもったおまじないのような味噌汁は、元気な日もそうでない日も、さりげなくそっと、わたしの心を支えてくれた。ずっと心と心を結んでくれていたような気がする。

3歳の息子は、わたしの隣でいりこを食べながら出汁のお手伝いをしていて、昔の自分を見ているようだ。今日も愛情たっぷりおまじないのような味噌汁を作ろうと思う。

イラスト:omiso
編集:ノオト

宇藤 えみ

宇藤 えみ

うとう・えみ

ファッション・フードスタイリストとして、雑誌や広告などで活躍中。“食”に関する活動も多く、最近では食卓の大切さを伝えたいと、各地の食や器、四季折々の楽しみを提案する「朝ごはん会」も不定期で開催。
Instagram: @emiuto

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