新年を祝うお正月膳のしつらえ

家族の笑顔に包まれながら新年を祝いたいという思いは、いつにも増して強くなっているのではないでしょうか。 古くからある習わしを大切にしながらも、新しいかたちでお正月のお膳を囲み、みんなの無事を喜び合う……。ここでは、どなたでもできる“和”のお膳のヒントをお伝えします。

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福田典子

福田典子

ふくだ・のりこ

食空間プロデューサー、歳時記研究家。<食は常薬>をテーマに国内外のホテルや企業イベント、メディアなど様々な場面で食空間を創出している。料理×器×美術×文化を取り合わせ、その向こうにある心豊かな暮らしをプロデュースすることがライフワーク。

お正月は、豊作と家内安全をもたらしてくれる歳神様(としがみさま)を祀る行事。門松や松飾りは歳神様を我が家に迎えるための目印です。
ちゃんとお祝いしたいけれど、決まり事があって難しそうと思う方がいるかもしれません。
でも、大丈夫。歳神様をお迎えしようという気持ちさえあれば、お正月のお膳はお屠蘇と祝い肴(さかな)三種、お雑煮ひと椀で充分です。

まず、お屠蘇についてお話しします。
時は平安時代、嵯峨天皇の御代の頃、唐の国から絹の袋に入った「屠蘇散」が献上されます。天皇は元旦から三日間、清涼殿の廂(ひさし)にその霊薬をかけ、四方拝儀式の後、お神酒(みき)に浸して用いたと言います。
これがお屠蘇の始まりです。
江戸時代には、流行り病を退け、常若(長寿のこと)を約束する薬酒として庶民の間にも拡がったようです。
中身は山椒・桂皮・陳皮・桔梗・防風などの生薬を合わせたもので、日本酒に6〜8時間浸します。
元旦の朝に家族全員で、年の若いほうから年長者へと順番にいただくのが習わし。お子様には、煮きったみりんに屠蘇散を浸すといいでしょう。

元旦の朝、若水(朝一番の水)で手と口を清め、神棚や仏壇に手を合わせて家族で新年の挨拶をします。このとき、抱負などをそれぞれが述べるのもいいですね。
それからお屠蘇を飲みます。

おうちに立派な漆器の屠蘇器がなくてもかまいません。
写真では白い器を用いました。これをお銚子として使います。
器には、お正月にふさわしい飾りを添えました。5分でできる手作りの飾りです。
松葉の両端を切り揃え、懐紙で束ねて、赤い糸で巻きつけたシンプルなものです。
白のお銚子と盃に、常若を象徴する松の緑、赤い糸が映えて、おめでたい飾りになりました。

お正月のお祝いには、三種の祝い肴があれば充分です。
祝い肴三種は、黒豆、数の子、田作りとしました。関東や関西など、各地方によって肴も違うと思いますので、慣習に沿ってご用意ください。

黒豆は、まめに働き、まめに暮らせるようにと勤労を尊ぶ精神が根づいていたのでしょう、縁起物になりました。ここでは白い小皿に松葉を敷き、てっぺんに梅酢で染めたチョロギをのせました。
数の子には、子孫をたくさん残して家が栄えるようにという願いが込められています。
田作りには、カタクチイワシの幼魚の干物を使います。その昔、イワシが大漁にとれた時代に田に放って豊作を願ったことから、この名前がつきました。
ここでは「難を転ずる」の意味を持つ南天の実を添えました。

写真では白い大皿に、奉書を二つに折ったものをのせて、その上に祝い肴を置きました。奉書は、コピー用紙や白い和紙で代用してもOK。一文字のように紙を大皿にのせることで清らかなしつらえになります。

祝い肴の数や膳組みは一、三、五、七などの奇数にするのが基本です。古来、中国や日本では奇数は陽の数字と考え、おめでたいものとされてきたからです。

祝い肴のほかにも、お節料理をたくさん用意するご家庭も多いでしょう。
重箱にぎっしり詰まったお節を、それぞれ取り皿にとって食べるのも、お正月の楽しみですね。色も形も異なる豆皿を自由に組み合わせて、好物を皿に取り、一人ひとり違うお膳を作ってみましょう。家族の好みがわかって面白いですよ。

お餅は神様に捧げる神聖な食べ物です。
歳神様にお供えをした野菜とともに煮て、お吸い物にしたのがお雑煮です。
もともとは、その年初めの「若水」を最初の火で煮込んだ「煮雑(にまぜ)」が神聖視されて、お雑煮と呼ぶようになったとか。
ご存じのとおり、お雑煮は全国各地でそれぞれお餅の形も出汁の種類も、入れる具材も違います。
なかには先祖代々、伝えられてきたお雑煮もあるでしょう。嫁ぎ先の具材がまるで違っていたり、北と南の味が家庭の中で混じったり、いいとこ取りでおいしく食べればいいのです。

ここでは紅白の丸餅、鶏もも肉をメインに、昆布出汁で煮ました。味つけは薄口醤油で、さっぱりと。人参と大根を梅の金型で抜いて華やぎを出し、柚子の皮を松葉に結んであしらいました。

もうひと椀は、おつゆに紅白の梅に見立てた人参と大根をどっさり入れたものです。年が明けてひと月もすれば梅の蕾が膨らんできますよね。
新春の喜びをお椀の中身で表すのも“和好み”の一興ではないでしょうか。

お屠蘇を飲んで祝い肴を食べ、お雑煮にお箸をつける頃には心もほっこり、有り難い新年の幕開けです。
皆さまにとってどうぞいい年になりますように!

執筆・調理・スタイリング 福田典子
撮影(松の枝以外の写真) 中島福美
編集 オフィス福永

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