【わたしの一皿vol.4】arikoさんの「にんじんスープ」

きっと誰もが持っている「スープ」にまつわる何気ない思い出。ときにうれしく、ときに切なく。わたしたちはいつだって、食べものに支えられているのかもしれない。今回はファッションエディター・arikoさんに、冬のある定番スープについて綴っていただきます。

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ariko(ありこ)

ariko

ありこ

『CLASSY』『VERY』など人気ファッション雑誌のエディター、ライター。自他ともに認める食いしん坊で、料理センスが抜群。これまでさまざまな料理教室に通い、その復習を欠かさない。
Instagram:https://www.instagram.com/ariko418/

毎年、木枯らし一号が吹いたというニュースが届くと始めるのが差し入れのためのスープ作りだ。雑誌のファッション撮影は、この時期ひと足先の春号に向けて行われる。

凍えるような寒さのなか、春ものの薄手の服を身にまといながら笑顔を作らなくてはいけないモデルたちはもちろん、撮影が終わる頃にはスタッフ全員からだの芯まで冷え切ってしまう。冬場のロケは本当に過酷なのだ。

そんななか、少しでも暖が取れたらと思って始めたのがスープの差し入れだった。

何がいいかなと考えたときに思い浮かんだのが、小さな頃からずっと飲み続けてきた母直伝のにんじんスープだ。見るだけで元気の出る鮮やかなオレンジ色のポタージュ。

とろりとまろやかで、にんじんってこんなに甘かったんだと実感するほっこりとした味わい。ひとくち飲めばお腹の中からじんわり温まる。にんじんが苦手という人でも必ずおいしいと言ってもらえる自慢のレシピだ。

作り方は本当に簡単。唯一のコツといえるのがじっくりと時間をかけて作ることぐらいだろうか。皮を剥いてざく切りにしたにんじんと玉ねぎを少量のバターでじっくりと蒸し炒めしたところに、湯を注ぎ、とろみのための生の米とコク出しのコンソメをそれぞれ少々加えて煮込む。米が柔らかくなったらブレンダーやミキサーでなめらかにしたら塩胡椒で味を調えれば完成。

にんじんを蒸し炒めするときに、にんじんから出た水気が再びなくなるまでじっくり時間をかけること。これがにんじんスープを甘くこっくりと仕上げるための母からの教えだ。これを面倒がって省くとどこかもの足らない味になってしまう。

差し入れにするときは750mlの保温ジャー2本に入れて持っていき、現場で紙コップに注いでサーブして、各自好みで生クリームを落としてもらう。ちなみにジャーの中にはそれぞれ4本分のにんじんがたっぷりと入っている。

湯気の立つ熱々のスープを手渡すと誰もが笑顔になる。一杯のスープがからだも心もほどけさせ、元気の源をくれるようだ。毎年作り続けていくうち、だんだんとスタッフのみんなの評判になり、いまでは楽しみにしていると言ってもらえることも多くなった。

撮影の前の晩、コトコトとスープを煮込んで保温ジャーに分け入れて一日が終わる。深夜になることも多いが、楽しみにしてくれている人がいると思うと止めるわけにはいかない。

厚手のコートが要らなくなる3月中旬まで続くこれが私の冬のルーティンになっている。

イラスト:omiso
編集:ノオト

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