初めての“金継ぎ”、やってみました!〜お気に入りの器をずっと使いたい

茶の湯文化から始まった、由緒ある器の修復技術“金継ぎ”。高級な磁器や和食器じゃないと金継ぎはできない? いえいえ、そんなことはありません。日常使いの器でもOK!お気に入りの器や思い出深い食器が割れてしまい、棚の奥に眠っていたら、金継ぎでよみがえらせましょう。

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お気に入りの器は出番が多いからこそ、割ったり、欠けてしまったりすることも多いのでは? でも、思い出も詰まっているし、捨てるには忍びない……。
そんな器を修復する技術“金継ぎ”をご存じでしょうか。
金継ぎで器を復活させ、ずっと使い続けることができるんです!

お皿を洗ったり、ダイニングテーブルに運んだりしている途中で手が滑ってガチャン!なんていう経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
「お気に入りの器だったのに……。このまま捨てるのはもったいないなあ」と、器を眺めながらへこんでしまいますよね。

旅先で買った思い出のお皿。記念に買った、お揃いのマグカップ。
食べ物や飲み物を入れる容器であると同時に、器には人それぞれの記憶が宿っています。
割れて使えなくなっても捨てられず、食器棚の奥にしまい込んだまま……そんな器に、もう一度出番を与えてくれるのが“金継ぎ”です。

割れ目をあえて目立たせるように、純金蒔絵の技術で器をつなぎ合わせる金継ぎ。古くは室町時代から伝わるこの技法は、日本独特の美意識から生まれた文化と言えるかもしれません。そのため、近年は海外でも人気を集めています。

金継ぎ専門の職人さんに修復を依頼することもできますが、最近ではキットが販売されていたり、ワークショップやオンライン教室が開かれていたりと、自分で金継ぎにチャレンジする人が増えています。
私の場合は、フランスの蚤の市で買ったカフェオレボウルが欠けてしまったのが、金継ぎに興味を持ったきっかけでした。
大切に布にくるんで無事に日本に持ち帰ったのですが、小物入れとして使っているうちに、縁が欠けてしまい……。捨てるのも忍びなく、欠片ごととってあったのです。

今回はこのカフェオレボウルを持ち込み、金継ぎ体験教室に参加することにしました。

レッスンをお願いしたのは、東京・恵比寿で金継ぎ教室を開いている「つぐつぐ」。
体験教室とはいえ、1日で完成するわけではなく、金継ぎには多くの工程があります。たとえば漆を塗って、それが固まるまで時間を置く必要がありますし、金粉を蒔いてからも、乾燥させるためにすぐには使用できず、完成までトータルで2カ月以上かかります。
先生によると、複雑な割れ方をしていたり、陶器の性質によっては完成まで半年を要するものもあるそうです。

そのため、今回は自分で持ち込んだカフェオレボウルと、「つぐつぐ」さんに用意していただいたもう1つの小皿を使って、主な工程を体験させてもらうことにしました。

ごく少量の小麦粉と水を練り混ぜ、生漆を加えてチューインガムのように伸びるぐらいの固さにします。

竹べらで割れた断面に麦漆を薄く、まんべんなく塗ります。破片どうしを合わせたときに、麦漆がほんの少しはみ出るぐらいに薄く塗るのがポイント。

破片を組み合わせ、割れ目に段差がないことを確認したら、マスキングテープで固定します。

これを「漆風呂」に入れて1週間以上置き、漆を乾かします。
漆風呂とは、漆が固まる温度20~30℃、湿度約70~85%を保つ室(むろ)のこと。
自宅で行うなら段ボールの中にビニールを敷き、その上に塗れ布巾を置いてフタをして湿度を保ちつつ、温かい場所に置けばOKだそう。

漆が完全に固まったらマスキングテープを剥がし、はみ出た麦漆をカッターで削り落とします。

次に、「錆漆」を薄く塗って埋め、漆風呂で1日以上、乾かします。十分乾いたら水研ぎ(下の写真を参照)をし、「黒色漆」を錆漆の上に塗ります。
錆漆とは、砥粉(砥石の粉末)を生漆と混ぜたもの。パテの役割を果たします。
黒色漆は、黒い顔料を生漆に混ぜたもの。
このように金継ぎでは何度も漆を用います。漆を塗り重ねることで強度を出すのです。

漆風呂で1日以上乾かし、黒色漆が乾いたら、いよいよ仕上げの段階です。

ここからの工程は、あらかじめ用意していただいた小皿で体験。
小さく切った耐水ペーパーを水につけ、漆を塗った表面のツヤが消えるまで、やさしく研いで平らにします。これを「水研ぎ」と言います。
器に残った余分な水分はティッシュなどでふき取ります。

生漆に弁柄粉を混ぜた「弁柄漆」を、黒色漆を研いだ上に薄く塗ります。
かすれるぐらい、ごく薄く塗るのがポイント。
塗ったら15~30分、置きます。

丸めた真綿に金粉をつけ、弁柄漆を塗ったところにそっと掃くように金粉をのせていきます。隙間なく金粉がのったら、真綿で金粉の上をくるくると、やさしく撫でます。
金粉の包み紙の上で作業すれば、高価な金粉をとりこぼすことなく使えます。

弁柄漆が元のラインよりはみ出ていたり、仕上げた金のラインが太くなったりした場合は、カッターで削って形を整えます。

真綿で余分な金を落とします。カッターで削った金は漆を含んでいるので、金粉の包み紙に戻してはいけません。

漆風呂に1日以上置いて、取り出します。

体験してみた感想は、とにかく楽しい!の一言。
手仕事が好きな人なら、ハマる人、多いと思います。

細かい作業が多く、集中力が必要な金継ぎですが、一つ一つの工程はそれほど時間がかかるわけではありません。
コツは、とにかく丁寧に作業すること。
一つの作業のアラが、その次の工程で如実に現れてしまうんです。
合言葉は「焦らず、急がず、丁寧に」です!

フランスの蚤の市で買った大事なカフェオレボウルがよみがえった喜び。
割れた継ぎ目が妙味を醸し、ますます愛着が湧いてきました。
おうちでおいしいお茶をいれて飲みながら、この器がしっかり乾くまで、しみじみと待ちたいと思います。

金粉、マスキングテープ、生漆、砥粉(錆漆用)、黒色粉、弁柄粉、耐水・サンドペーパー、真綿、筆、へら、竹べら、さじ等。このほか、ゴム手袋やスポイト、パレット、カッター(アートナイフ)が必要です。

▷取材協力
株式会社つぐつぐ
代表取締役 俣野由季
2020年3月創業。金継ぎ教室(オンライン有)の開催のほか、金継ぎキットの販売や、割れた器の修復サービスなどを行っている。
150-0013 東京都渋谷区恵比寿2-21-2 akikito apt.1階
https://kintsugi-girl.com/
連絡先: info@kintsugi-girl.com

<ライタープロフィール>
三浦顕子(みうら・あきこ)
料理雑誌、ビジネス誌などの編集を経て、フリーランスのライターとして独立。縫物、編み物などの手仕事と文房具が好き。

撮影:村上宗一郎
編集:オフィス福永

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