vol.22 男子バスケットボール

西村向佑さん(17)アルバルク東京U18所属恵子さん

From Parents to Child

近年、爆発的に勢力を拡大し、野球・サッカーに次ぐ市場を誇るBリーグ。アルバルク東京はそんなBリーグの中でも人気・実力ともにトップクラスのチーム。2025年には青海にできる新アリーナに本拠地を移し、さらなる飛躍が期待されています。今回の主人公、西村向佑さんはアルバルク東京のユースチーム(U18)に所属する高校3年生。黒赤のクールなユニフォームで羽が生えたように躍動する彼が、まだ高く跳べずに奮闘していた頃の話をお母さんに伺いました。

あどけなさが残る、ミニバス時代の向佑さん。姉の稀惠(きえ)さんと同じチームに所属し切磋琢磨してきた。大学生の稀惠さんは現在、子どもたちにバスケの指導もしている。

普段はポーカーフェイス。試合になると一変

主人も学生時代バスケをしていたので、向佑は小さい頃からバスケットボールで遊んでいましたが、ちゃんと始めたのは小学校1年生の時。地元の元石川ミニバスケットボールクラブに入りました。練習が週3〜4回あったのですが、体を動かすことが好きな子だったので当時はバスケの他に野球と水泳もやっていたんですよ。毎日スポーツに明け暮れていて、低学年のうちはご飯を食べたらよく寝落ちしていました(笑)。
普段は自分の感情を口にするタイプではないんですけど、試合になると闘志が表情に溢れるタイプ。小4の頃、6年生に混じって試合に出させてもらった時のことが忘れられません。高さでは敵わないからとめちゃめちゃ体を張ってディフェンスしていて、3回ほどオフェンスファウルをもらうことに成功したんです。小さい向佑がひるむことなく大きな6年生に立ち向かい、メンバーとしてちゃんと仕事をしたことに感動しました。
6年生の最後の大会では、地域の大会で初優勝を目指してストイックにがんばってきて、見事決勝戦までこぎつけたんですけど、コロナで試合が中止になってしまったんですね。同率一位という結果になったんですけど、勝負したかったんでしょうね。すごく悔しがっていました。

冷たいお弁当が苦手な向佑さんはご飯とスープが保温されるランチジャーを使用。冬場の練習で冷えた体に、大好きな具だくさんの豚汁が染み入る。

バスケが楽しくてたまらないって感じ!

アルバルクのユースチームに入ったのはひょんなことから。向佑は小3の時に観たウィンターカップ(高校バスケの選手権大会)に感銘を受け、神奈川県でバスケが一番強い高校を目指したいと言うようになりました。それで中学受験をして入学したのが、いま通っている桐光学園なんです。桐光学園中学校のバスケ部に入ることも考えたんですが、全国大会出場レベルの高校バスケ部で活躍するために、中学の間はプロ傘下のユースで経験を積むのもありかなとダメ元でアルバルク東京のトライアウトを受けてみたところ、後期のトライアウトに滑り込みで合格。そこから週4で府中の練習場に通う日々がスタートしました 。
 中3で、高校もクラブに残るか、夢だった桐光学園のバスケ部に入るかという岐路が訪れるんですが、向佑はアルバルク残留を選びました。どうしてこの道を選んだのか詳しくは聞いてないんですが、いま楽しくてたまらないという様子でプレーしている姿を見る度に、きっと本人にとって正しい選択だったのだろうと思います。アルバルクは選手の自主性を重んじる指導方針なのでそれが良かったのかもしれませんし、中学時代からずっと一緒にがんばってきた4人の仲間とプレーし続けることを選んだのかもしれません。

この日のメニューはヒレカツと筑前煮、卵焼きなど。栄養バランスや栄養不足に注意していて、補食のおにぎりも持たせている。ちなみに平日の練習後など夕食が遅くなる日の定番はお肉も野菜もたくさん取れて消化にいい鍋料理。

君がやりたいことに全力を出せますように

私、バスケを観るのがほんっとに好きなんですよ。向佑の試合も毎回欠かさず応援にいきますし、撮影した動画を夜な夜な一人で見直しているほど(笑)。アルバルクのファンでもあって、推しはムードメーカーの平岩玄選手。ふと我に帰って、息子がアルバルクU18に所属しているなんて夢のようだなと思うこともあります。
高3の向佑はいま家に帰ると受験勉強に打ち込む日々。自分で高い目標を立てて、学校の力を借りながら塾に行かずに自力ですごくがんばっていると思います。だからこそ、アルバルクの存在は大きいはず。大好きなバスケがあるからこそ、心折れずに勉強を続けていけているんじゃないかな。
これまでも自分で決めた目標を達成してきた子だから、今回も全力でやり切って欲しい。途中で諦めずにやりたいことがあるなら努力してそれを貫く人生を送って欲しい。そのために私にできるサポートは何でもしてあげたいなと思っています。

From Child to Parents

高身長で運動神経抜群、おまけに頭もいい。三拍子揃ったバスケ選手となればさぞかしモテるでしょうが、実に硬派な向佑さん。ずっとずっと真摯にバスケと向き合ってきました。「遊びのノリは好きじゃない」という言葉通り、バスケで培った客観性と生来のストイックさを武器に自分を高めることに余念がありません。そんな向佑さんに、大学受験という人生のターニングポイントを目前に、変容しつつあるバスケとの関係性について聞きました。

今シーズンのアルバルク東京U18の軸となる、高校3年生の5人。中学からずっと一緒にプレーしてきて、認め合い、高め合うことができる大事な仲間だ。

リスペクトし合う仲間とずっと一緒にやってきた

バスケは、体と脳みそ全部を使って勝負するのが面白いところです。どこにスペースがあるのかを見極めながらカッティングしたり、どこにドライブしたらシュートしやすいか考えたり、常に頭と体をフルに働かせていないと点が取れないスポーツなんです。ポジションは、パワーフォーワード(PF)。スラムダンクで言うと桜木花道のポジションで、パワーとスピードが求められます。
目下の課題は、最高学年として新チームをまとめ上げること。これは僕だけじゃなくて高3メンバー5人全員の課題でもあります。5人というのは、一番野心的で勢いのある響、寡黙だけど芯があってメンタルも強い碧人、努力家で常に冷静沈着な大知、チームで一番背が高く運動神経抜群な遥輝と僕の5人。中学からずっと一緒にやってきました。
うちはキャプテンを作っていないんですが、メンバー同士リスペクトし合っていますし、熱くなることはあっても自然と意見はまとまります。でも、こういうやり方に慣れるまでは結構大変でしたよ。中学生の頃なんてみんな好き勝手言うんで、意見がなかなかまとまらなかったりしました(笑)。

「向佑は賢いだけではなく、頭でっかちにならずにちゃんと消化して行動に移せるタイプ。常にチームのために動く非常に優秀なプレイヤーです」と桝本純也コーチからの信頼も厚い。

自分を理解してもらえている、この環境は結構重要だと思って

高校もアルバルクでプレーしようと決めたのは、いろんな理由があるんですけど、一番大きかったのは桐光学園の高校バスケ部は忙しすぎて、生活がバスケだけになってしまうだろうと思ったからです。僕は勉強もしたかったし、他にやってみたいこともあったから、そういう時間も確保したかった。それから、コーチも仲間も僕のことを理解してくれた中で楽しく真剣にプレーできる、アルバルクでのいまの環境は結構貴重かなと思ったからです。
実は、中・高と学校では山岳部に所属していて、高2までは夏休みになると八ヶ岳とか北アルプスとかに登りました。こういう貴重な経験ができたのはアルバルクを選んだからだと思います。
ずっと憧れていたチームだし、桐光学園のバスケ部に入っていたらどうなってたかなって考えることは時々あります。だからこそ、勉強もバスケも全力でがんばって、自分の選択が間違いでなかったということを証明するのみですね。アルバルクでは、一個上の先輩がユースの全国大会でベスト8といういい成績を残してくれたので、それを超えるような成績を残すべく日々練習に取り組んでいます。

硬派な向佑さんが少し照れながら書いてくれた様子が眼に浮かぶ、ちょっぴり硬いけど想いが詰まったメッセージ。自立した親子関係が想像できる。

プロ選手への憧れはあるけれど……

小さい頃はバスケを教えてくれたし、一家の大黒柱であるお父さんのことは尊敬しています。お母さんは美味しい料理を作ってくれるし、自分の時間を割いてバスケの送り迎えをしてくれていて感謝しています。おっとりしてそうに見えるかもしれないけれど、試合の時は選手以上に大きな声を出して応援してくれる元気な人なんですよ(笑)。
いまは、バスケをがんばりながら国立大学を目指して受験勉強に励んでいます。なぜ国立にこだわるのか、ですか? なんというか、ゆるい雰囲気があまり好きではないので、できるだけ真面目に勉強できる環境に身を置きたいなと思っているんです。
将来の夢はマーケティングの仕事に携わること。プロ選手を身近に見られる環境にいて、プロ選手の技術もマインドもすごくカッコいいって思っていて、憧れはあるんですが、僕はそうじゃない道を選びます。大学入学後、遊びじゃなくて真剣にバスケができる環境があれば、その時もう一度本気でバスケをやりたいなと思います。

※2025年5月 公開