vol.18フェンシング
[後編]

河原資起さん(15)立教新座高校 フェンシング部所属恵子さん

可愛らしい笑顔に騙されそうになるけれど、河原資起(もとき)さんはなかなかの切れ者です。高校1年生とは思えないクリティカルでウィットに飛んだ発言の数々で、取材中何度も膝を叩いて大笑いさせられました。どんな質問にもオリジナルな答えがあるところも日頃の思考量が想像できます。あるいはフェンシングという刹那の真剣勝負は、強靭な体幹や俊敏性以上に、頭の良さが必要になるのかもしれません。成長著しい日本フェンシング界を代表する次世代の騎士になれるか。スランプを乗り越え、世界で戦う16歳はどこか飄々としています。

ワクワクする楽しさがフェンシング上達の原動力

フェンシング、最初は遊びでやってたんですよ。試合でいい結果が出るようになるとまずお父さんが熱くなって、その気持ちに応えたくて僕も真剣になっていきました。小5の時『みのわもみじカップ』でいつも負けていたライバルの選手を倒して優勝できて、すごく嬉しかったことをよく覚えています。お父さんもめちゃくちゃ喜んでくれました。

中学に入ってからはさらに過酷に。中学受験のために練習時間を削って勉強したせいか、知らぬうちにライバルたちとの間に差ができていたんです。学校の部活だけでは足らなくて、クラブチームにも参加し個人レッスンも積極的に受けました。勉強もやらなきゃいけないから、必死で時間をやりくりしました。

大会でまた結果を出せるようになったのは、競技種目をサーブル(*1)に絞ったのも大きかったです。小5からフルーレ(*2)をメインにサーブルにも挑戦していましたが、フルーレでは勝ち上がれない反面、サーブルではいい結果が残るようになっていたんです。同じ頃、サーブルのいいコーチにも出会い、部活の上級生にもサーブルの強豪選手がいて、練習がすごく楽しくなりました。学ぶことがたくさんあって、昔の新鮮な気持ちが蘇ってきました。

小学校5年時には初めての海外遠征で香港へ。合宿のあと上海で行われた「中国国際オープン」にも参戦し、フルーレで準優勝した。帰国時に空港で朝の情報番組「ZIP!」(日本テレビ系列)の取材を受けたのもいい思い出。

フェンシングは強いだけじゃなくかっこよくなきゃ

自分は、これといった弱点がないのが特徴で、相手に合わせながら隙を見て弱点をつくスタイル。海外選手に多いんですが、ぐいぐい攻めてくるタイプには割と強いです。でも、世界選手権のようなトップの大会では彼らの凄みも感じました。欠点があっても、それをカバーするメンタルの強さと勢いがあるんですよね。

好きな選手はベタだけどハンガリーのアーロン・シラーギ選手。もう33歳なんですけど世界チャンピオンで、(形の)きれいなフェンシングをするんです。僕もフェンシングには美しさが大事だと思うけど、試合ではとにかく速ければいいみたいな選手もいる。だから、アーロン選手が勝つのをみると嬉しいし、憧れます。あと、一緒に世界ジュニア・カデ・フェンシング選手権大会に行った、1つ上のクラス(U20)の日本人選手たちのことはみんな尊敬しています。

海外遠征も多いけれど僕はどこでも寝られるタイプだし、コンディショニングで気をつけていることといえば、試合前日はゲームをしないで早く寝ることくらい。食事もお母さんが料理上手でいろんなものを作ってくれますが、嫌いなものを無理して食べなくていいって言われているんで、好きなように食べています。ハンバーグとか特に好きですよ。

河原家は、嫌いなものは無理して食べなくていいという方針。資起さんが好んで食べるものにひと工夫したりして栄養バランスを整えている。料理上手な恵子さんだから成せる技。

お母さんと僕は似たもの同士なんですよ

僕は家族とよく話す方なんですが、お母さんに意見を言われるとどうしても腹が立つんですよね。なんでかと言うと、僕たち負けず嫌いで似たもの同士なんですよ。

その点お父さんは一歩引いた優しさがあって、試合で負けても「次がんばろう」って言ってくれるんです。そういうお父さんだからこそ、僕はフェンシングを続けてこられたんだと思います。実際、過去2回「フェンシングをやめたい」と思ったことがあるんですが、お母さんに言うと「やめなやめな」って言うんです。止めて欲しいのにびっくりですよ。そんな時お父さんが「何年も頑張ってきたのにもったいないよ、絶対やめちゃダメだよ」って言ってくれるから早まらずに済みました。

でも、なんだかんだでお母さんのことは好きだし頼りにしているんです。お父さんと遠征に行く時、お母さんが「これ持った?」って聞いてくれるんですけど、それが大抵入ってないんですよね。お父さんのちょっと抜けたところも僕に遺伝しちゃってるんで、2人して気が付かないんです。

目下の目標は2024年の世界選手権で上位入賞すること。その先、進路をどうするかとかはまだ決めきれてないけれど、フェンシングだけじゃなく、いろんなことができる人になりたいです。

おしゃべりは溢れてくるのに書き残そうとすると言葉が出ない。悩んで選んだシンプルな感謝の気持ち。資起さんの表も裏も知っているお母さんにはきっと届いているはず。


注釈
*1 サーブル:フェンシングの種目の1つ。スピード感があり運動量が多い。上半身が有効面(攻撃すると得点になる場所)で、「突き」と「斬り」の2種類の攻撃ができる。攻撃の「優先権」の概念がある

*2 フルーレ:フェンシングの種目の1つ。初心者はこの種目から始めることが多く、選手層も厚い。背中を含む胴体が有効面(攻撃すると得点になる場所)で、攻撃は「突き」のみ。サーブル同様に攻撃の「優先権」の概念がある

※2023年5月 公開