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水分はお茶でもコーヒーでもOK! 体を整える大人の「水分補給」
私たちが日々行っている水分補給。その大事さを理解しているつもりでも、つい忘れてしまう人もいるのではないでしょうか。適切な水分補給の方法について、実はよくわかっていない……なんて人も少なくありません。意外と知らない大人の「水分補給」について、専門家の鷹股亮教授にお話を伺います。
鷹股亮
たかまた・あきら
奈良女子大学生活環境科学系生活健康学領域教授。専門は環境生理学。
正しい水分補給、できていますか?
「水分補給」の大事さを耳にする機会が増えました。「自分はきちんと水分補給ができているのだろうか?」と気になる人もいるかもしれません。
1日何リットルの水を飲めば良いのか。お茶やコーヒー、食事の水分はカウントされるのか。家にいて汗をかいていない時も水分補給は必要なのか。正しい水分補給とは一体……。身近なはずなのに、意外と知らないことだらけです。
人間の体にとって、水分は非常に大事なもの。細胞の維持や血液の循環、体温調節などに大きく関わります。
そこで今回は、生理学を専門とする鷹股亮教授に、水分補給の基本について教えてもらいました。
熱中症から生活習慣病まで! 水分不足のリスクとは
水分が不足すると、体に何が起こるのでしょうか。鷹股教授によると、短期的・長期的な影響があるといいます。
「短期的な影響としては、やはり熱中症のリスクが挙げられます。水分が不足すると体液の量が減って、汗をかきにくくなるんです。体温調節がうまくできなくなってしまうんですね。
体液の量が減ると、血液の量も減るので、急に立ち上がることで血圧が低下する起立性低血圧が起きることも。それによって、立ちくらみや頭痛が発生する場合もあります」
熱中症のリスクは、水分補給の大切さを語るうえで必ず出てくる話です。しかし、起立性低血圧の原因にもなるとは。長期的な影響についても気になります。
「長期的に水分不足の状態が続くと、体の中で軽い炎症が慢性的に引き起こされると考えられています。それが肥満や高血圧、糖尿病などの生活習慣病リスクを上げる可能性も示されているんです」

これまで、短期的な影響しか意識したことがない人も多いはず。ですが「今日は体調も悪くないし、大丈夫だろう」と水分補給を後回しにしてしまうと、積もり積もって大きな病気に繋がる可能性もあるとのこと。水分補給の必要さが身にしみます。
水分補給は水じゃなきゃダメ?
水分不足のリスクを聞いたあとは、正しい水分補給についても知りたいところです。はじめに、1日に摂取すべき水分量の基準を教えてください。
「成人の場合、1日に体重1kgあたり35ml程度の水分が必要と言われています。体重50kgの人だと、単純計算で約1.8Lですね。とはいえ、すべてを飲料でまかなう必要はありません。食事に含まれる水分や、代謝水(※)も含めての量です。飲料から摂る水分量は、1日に必要な水分量の6〜8割くらいを目安にしてください」
- 炭水化物や脂質を代謝する際に、体内で生成される水分のこと

汗をたくさんかく夏と、そこまでかかない冬だと、必要な水分量は変わってくるのでしょうか。
「もちろんです。今お伝えしたのは、あくまで汗をかいていない状態の基準。人間は、汗をかいていなくても、呼気や皮膚の表面から常に水分が蒸発し続けています。それらと、排泄物などで体から失われる水分をまかなうための必要量が、体重1kgあたり35ml程度とされています」
では、汗を大量にかくような暑い日は、いくらかプラスして摂取すべきなんですね。
「そうですね。ただ人間の体は、汗をかいたらその分尿の量が減って、逆に必要な水分量より多く飲むと、その分尿から排泄されます。ですので、汗と同量の水分を摂取できなくても、体液量のバランスは取れるんです。
水分補給はあまり細かい数字に縛られなくても大丈夫ですが、多めに摂取するほうが体液維持の観点からは望ましいでしょう。ただし、腎機能や心機能に問題のある方は、過剰な水分摂取が体の負担になることがあります。そういった場合は、必ず医師の指導に従ってください」
もう一つ気になるのが、飲みものの種類です。カフェインが含まれるお茶やコーヒーを水代わりに飲んでいいのかわからず……。いかがでしょうか。
「カフェインについては、あまり気にしすぎる必要はありません。『カフェインには利尿作用がある』と考えている人もいらっしゃいますが、実は明確なデータってあまりないんですよ。普通の煎茶くらいなら、水とほとんど変わりありません。コーヒーはもう少しカフェイン濃度が高いのですが、それでも飲まないよりは飲んだほうが、確実に水分補給になります」

カフェインの利尿作用で、飲んだ量以上の水分が排出されてしまうのでは?と誤解している人も多いかと思います。でも、そんなことはないんですね。
「はい、ありません。むしろ、水よりお茶のほうが飲みやすいと感じるのであれば、積極的にお茶を飲んでいただきたいです」
それを聞いて、水分補給の心理的なハードルがぐっと下がりました。より効率的に水分を補給するために、知っておきたいポイントなどはありますか?
「なにか食べるときに、水分も一緒に補給することがおすすめです。水だけを飲んでいると体液は薄まります。そのため、体は体液の濃さを保とうとして、尿などで体から水分が排出されやすくなります。ですが、ナトリウムが含まれている食べものとともに水分を摂ると、水分が体に保持されるのです。
普段の食事やおやつ時などに、飲みものも必ず準備するようにしてみてください。そうすると、自然と効率よく水分補給ができますよ」

日々の水分が足りているかをチェックしよう
適切に水分を摂るためには、まず自分の水分補給が足りているかを知ることが大事だといいます。
「水分摂取量の状況は、尿の色を見ればわかります。薄い色をしていれば足りていますし、濃い色をしていれば水分不足の状態です。こまめにチェックする習慣をつけましょう。
1日の水分補給量を計っている人はそう多くありませんよね。でも、自分がどれくらいの量を飲むと、どんな色の尿になるか、おおよその基準を知っておくことはとても重要です。」
「最近は、喉が渇くから水を飲むというよりも、嗜好品として水分を摂る人のほうが多いかと思います。私もそうで、コーヒーやお茶は好きだから飲みますし、1日の水分摂取量も多めです。
水分補給は、自分の好きなもの、飲みやすいものを飲むことが一番。そうすることで、水分不足は回避できるのではないでしょうか。ただし、糖分の過剰摂取には気を付けてくださいね」
今まで「これだけ飲まなきゃ」、「水じゃなきゃダメ」……と、気負いがちだった人も多いはず。ですが今回、水分補給についてもっとラフに考えてもいいことを知れました。
どの程度の水分が必要なのかを大まかに知る。そして日常の中で少しだけ多めに水分を摂る。これらを意識するだけでも、水分補給の基本は押さえられているのではないでしょうか。
これからは、無理せず楽しく自然に、毎日の水分補給をしていきましょう。
中込有紀
なかごめ・ゆき
編集プロダクション・ノオトのライター/編集者。好きな食べ物は目玉焼きとラーメン二郎。
イラスト:omiso
編集:ノオト