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包丁の切れ味を長持ちさせる!プロ直伝の簡単デイリーお手入れ
自炊をする人にとって身近なキッチングッズといえば、包丁です。毎日使ってはいるけれど、定期的なお手入れはあまりしていない人もいるのではないでしょうか。そこで今回は、包丁を長持ちさせるためのお手入れ方法を、包丁料理人おいりさんにお伺いします。
おいり
包丁を愛する包丁料理人、包丁コンシェルジュ、包丁研ぎ・切り方アドバイザー。辻調理師専門学校で日本料理講師として務めたあと、堺包丁の研ぎ師として活動。現在はフリーランスで包丁研ぎ講演やメディア出演、YouTubeでの情報発信をおこなう。
YouTube:https://www.youtube.com/@oiri_kitchen
包丁のお手入れ、していますか?
あなたは普段、どのように包丁をお手入れしていますか?
こまめに刃を研いで使っている人もいれば、正直そこまで深く考えたことがない、という人も少なくありません。包丁をよく使う人ほど切れ味の低下に慣れてしまって気づきにくい、なんてこともあるのでは。
とはいえ、包丁の状態は調理のしやすさに大きく関わるものです。包丁の基本を知っておけば、より長く、より快適に包丁を使い続けられるはず。
そこで今回は、包丁料理人のおいりさんに、意外と知らない包丁の取り扱い方や、お手入れ方法について教えてもらいました。
誰もがやりがちな「あの動作」で切れ味が落ちる?
まずは、普段から気にかけておきたいことを教えてもらいます。おいりさんによると、うっかりやりがちなあの動作が、包丁の刃を傷めてしまうのだそう。
おいりさん
「包丁の刃を最も傷める行動は、刃を横に滑らせることです。たとえば、みじん切りにした野菜をまな板からフライパンに移すとき、包丁を横に滑らせてザーッと入れることがありますよね。
誰しもが一度はやったことがある珍しくない行動だと思います。ですが実は、包丁的には絶対NGなんです。包丁を横に滑らすだけで、切れ味がすぐに落ちてしまうんですよ」
ドキッとした人は、筆者だけではないはず。無意識にやっていたことが、刃の劣化を早めてしまっていたとは……。
おいりさん
「もし、切った野菜をザーッと入れたい場合は、刃ではなく峰(背)のほうを使ってください。そうすれば、なんの問題もありません!」

少しの気遣いで、刃の持ちはグッと変わるとのこと。まな板と包丁の相性も、刃に影響するのでしょうか?
おいりさん
「影響は大ありです! 刃を第一に考えるなら、木製のまな板、特にヒノキやイチョウの木を使ったまな板がおすすめです。クッション性があって、刃が傷みにくいんです。
一方で、まな板は衛生面も重要。私の場合は、肉用のまな板は熱湯消毒のできる樹脂製のもの、野菜用のまな板は木製のものと使い分けています。ただし、樹脂製も同様にクッション性を重視しているので、私は厚み3cmほどのものを使っています」
包丁を長持ちさせるためには、まな板選びも重要なんですね。普段使う機会が多いからこそ、灯台下暗しであまり気にしていなかった人もいるのではないでしょうか。
おいりさん
「基本的に、包丁の切れ味が悪くなる原因のほとんどは、まな板にあります。空中で食材を切っているだけなら、そこまで包丁の切れ味は落ちないんです。包丁の扱いを考えるときは、同時にまな板にも気を配ってみてください」
「シャープナー研ぎ」と「プロ研ぎ」の組み合わせがベスト
次に、包丁の研ぎ方についてもお伺いします。砥石で包丁を研ぐのがいいと分かっていても、やはり一般家庭の人にとってはハードルが高く感じられます。おいりさんが、みなさんに広く勧めている方法があれば教えてください。
おいりさん
「一般家庭の8割くらいは、砥石を使っていないと思いますし、私もそれでいいと思っています。どうしても、面倒さが勝ってしまいますからね。結論を言うと、普段はシャープナーで包丁を研いで、切りづらさを感じたら包丁店に持ち込んでプロに研いでもらうのをおすすめします」
包丁のプロにそう言ってもらえるのは、とても心強いです。気負わず、気軽にシャープナーを使ってもいいんですね。「切りづらさを感じたら」とは、具体的にどのような状態のことを指すのでしょうか?
おいりさん
「シャープナーは刃先しか研げないため、刃元に近い部分はどんどん厚くなっていきます。すると、大根や人参などの固い食材に刃を入れた際に『切る』ではなく『割る』感じになってしまうんです。それが『切りづらさ』の正体です。
対して砥石は、刃先だけでなく包丁全体を研ぐことができます。刃元が厚くなってしまった包丁をプロに研いでもらう場合は、専門用語で『肉抜きしてください』と頼むと伝わりやすいですよ。

包丁をサビから守るポイントは「水分」と「空気」
研ぐこと以外にも、日常的に気をつけておきたい包丁のお手入れポイントがあれば教えてください。
おいりさん
「一番簡単、かつ大切なポイントは、水分をしっかりと拭き取ることです。ご存知の人もいると思いますが、水分は金属の大敵。特に鋼製の包丁は、水滴が残ったまま放置するとすぐにサビてしまいます。
ステンレス製の包丁はサビにくいと言われていますが、決してサビないわけではありません。包丁を洗った際は、すぐに布巾で水気を拭き取ったあと、完全に乾いた布巾やティッシュペーパーなどでもう一度軽く拭き上げてください。そうするだけでも、包丁は格段にサビにくくなりますよ」
ステンレス製ならではの注意点はありますか?
おいりさん
「ステンレス製の包丁は、必ず空気に触れさせてください。ステンレスは酸素が供給されないと、不動態皮膜というサビを防ぐ保護膜が形成されにくくなります。
収納する際は、シンクの下などにある包丁置きに置くので問題ありませんが、マグネットで包丁自体をくっつけるタイプの収納は、あまりおすすめできません。マグネットで接触している部分は酸素が届きにくいですし、キッチンの上は水分もはねやすいですからね。もしマグネットタイプの収納を使っている場合は、水気を完全に取りきってからくっつけてください」
水分がサビの原因になることはなんとなく知っていても、ステンレスは空気に触れさせる必要がある、というのは知らなかった人も多いはず。
おいりさん
「ステンレスの注意点でいうと、金属同士が接触することで『もらいサビ』ができたり、塩分が付着したまま放置するとサビてしまったりすることもあります。そういったことに気を付ければ、ステンレス製の包丁はサビずに長く使えますよ」

もし包丁がサビてしまった場合は、どうすればよいのでしょうか。
おいりさん
「ちょっとしたサビなら、クレンザーや紙やすりでこするだけできれいに落ちます。なので、少しサビてしまっても諦めないでください。大丈夫ですから」
それを聞いて安心しました……。普段の何気ない動作が、実は包丁のダメージになっている。そして簡単にできるお手入れが、包丁を長持ちさせる大切に扱うための大事なポイントになっている。包丁に対する日々の気配りが、とても重要だと気付かされました。
包丁のお手入れはルーティーン化すべし
包丁を長く使いたい。でもお手入れは最低限で済ませたい! そんなわがままを叶えるためのアドバイスを、最後に教えてもらいました。
おいりさん
「普段のお手入れをできるだけ減らしたいなら、サビにくいステンレス製を選ぶこと。そして、包丁を2本以上持つことを強くおすすめします。固い食材を切る包丁と、柔らかく繊細な食材を切る包丁で使い分けてもいいですし、単純に肉用と野菜用で分けるのもOKです。使う頻度を分散させることで、お手入れの回数はぐっと減らすことができますよ。
そして先程も言ったように、普段はシャープナーで研いで、ストレスを感じ始めたらプロにお願いする。その繰り返しが一番楽だと思います。シャープナーで研ぐタイミングは、毎週土曜日や、毎月1日など、自分なりに日を決めてルーティーン化するといいですよ。研がなさすぎはNGですが、研ぎすぎてNGということはありませんから」
今回のお話を聞いて、包丁のお手入れに対するハードルがかなり下がりました。今すぐにでも、自分の包丁の状態を確かめて、お手入れを始めたくなりました。
おいりさん
「もし興味があれば、砥石を使った包丁研ぎにもぜひトライしてほしいです。難しそうに見えますが、意外と簡単ですし、砥石もリーズナブルに手に入ります。一度試してみたら、思いのほか包丁研ぎにハマってしまった!なんて人もよく見かけます。音や感触も心地よくて、瞑想みたいに感じられますよ。
もちろんプロにお願いしてもいいのですが、自分で砥石を使って研げるようになると、シャープナーと砥石のルーティーンを自分だけで完結できるので、むしろ楽になるかもしれません」

今まで「切れればいいや」と、自分の使っている包丁に無頓着でした。しかし、普段からの細かいお手入れや気遣いの積み重ねが、包丁を長持ちさせることにつながると分かりました。
日々の簡単なお手入れを続けつつ、気になる人はぜひ、砥石にもチャレンジしてみてください。気づいたら、新たな趣味となっているかもしれません。
ライター:中込有紀
イラスト:辻本まみ
編集:ノオト
中込有紀
なかごめ・ゆき
編集プロダクション・ノオトのライター/編集者。好きな食べ物は目玉焼きとラーメン二郎。