Vol.02 ボクシング[前編]

松本圭佑さん
(17)/大橋ボクシングジム所属
久代さん

名門大橋ボクシングジムに将来を嘱望されるボクサーがいます。U-15ボクシング全国大会5連覇、高校1年生にして全国高等学校選抜大会で優勝を飾った松本圭佑選手。「夢は東京オリンピックで優勝すること」。コーチであるお父さんと二人三脚で戦い続ける日々を支えるお弁当とは、いったいどのようなものでしょうか? またボクシングに付き物である減量の期間中はいったいどのように過ごしているのでしょうか? お母さんに聞いてみました。

小さなお弁当。せめて美味しく食べて欲しい。  お弁当、小さいですか? これは普段用です。日頃から体重を増やさないようにしないといけないので、同世代の男子と比べたら少ないですよね。減量期間はさらに過酷です。試合1週間前になると、ご飯はこの4分の1くらい。1日約1000キロカロリーに抑えるのでおかずも少なくなります。ハードな練習をしているのに、女子のお弁当の半分くらいの量しかない。ときどき可哀想になって少し多めに入れてしまうんですが、本人が気づいてしっかり残してきます。

 お弁当は栄養バランスとキロカロリーを考えて野菜多めに。でも、一番意識しているのは美味しく食べてもらうことです。量は少ないけれど好きなもの、美味しいものを食べて少しでも満足して欲しい。だから油に気をつけながら、好物のお肉は入れます。

 もともと食が細いわけではないんですよ。試合が終わったあとの何日間かはものすごい食べるんです。こないだラーメン屋に行ったときは、大盛にしてチャーシューもたくさん乗せていました。やっぱり普段我慢しているんですよね。

この日はたんぱく質豊富なゴーヤチャンプルがメイン。キロカロリーが少ないレタスやキュウリ、栄養豊富でお腹にたまるカボチャやイモ類もよく使う

弱かった息子がボクシングで大きく変わった。  圭佑はもともと泣き虫で引っ込み思案な子だったんです。いまはかなり改善していますが、小学校に入る頃に髪の病気になってしまい、当時は学校に行きたくないと泣くこともよくありました。

 3年生のとき、元プロボクサーだった父親の勧めでボクシングを始めたんですが、最初は「試合なんて絶対無理!」って感じで、練習のときも泣いてばかりいたんですよ。それなのに、周りの人たちが褒め上手だったんでしょうね、練習を重ねるうちにだんだんその気になってきて、小学校5年生になる頃には本格的にボクシングをするようになりました。その頃から、性格も明るくなって友達も増えてきたんですよね。学校の先生からもリーダー的な存在になってきたと言われるようになりました。

 家では本当に優しい子なんです。辛いだろうに減量時期にピリピリしたりすることもない。「お母さんは好きなだけ食べて」っていう感じで飄々としています。親子の会話も多いし、妹がいたずらしても怒らない。何回言ってもその日のうちにお弁当箱を出してこなかったり、わんぱくなところもあるけれど、自慢の息子です。

久代さんは国体にも出場した元体操選手。くりっとした目元だけでなく、抜群の運動神経も圭佑さんに遺伝した

戦う父と息子、それを見守る母。  主人と圭佑は、親子でありコーチと選手でもあるんですが、ボクシングを通してすごくいい関係になったと思います。圭佑は主人のことを心から信頼しているし、主人は圭佑の意志を尊重したうえでいい方向に導いている。強い信頼関係で結ばれていることが伝わってきます。

 ボクシングは厳しいスポーツですから、試合になると生きた心地がしないですし、あと何回ハラハラしなきゃいけないんだろうって思うと辛いけれど、本人が本気でやっているのだから止めさせるわけにはいかないですよね。

 圭佑はよく「僕は頭を働かせているんだ、いつも考えているんだよ」と言うんですが、父親以外にも大橋ボクシングジムでご一緒させてもらっているたくさんの選手たちに刺激を受けて、しっかりとしたビジョンや考えを持っています。だから、本当にわたしは何もしてないんですよ、いつも見守っているだけ。ただ、戦いの日々のなか少しでもほっとして欲しいなと思っています。お弁当にはそんな願いが込められているのかな。

運動で失われるエネルギーやミネラルなど、不足しがちな栄養素はゼリー飲料で補給することも。手軽に補給できるように、常にストックしてある

※2016年10月 公開