vol.10スポーツクライミング
[後編]

西田朱李さん(18)千葉県山岳連盟所属増美さん

「卒業式の翌日に美容院に行ったんです」と染めたてのヘアカラーを嬉しそうに見せる姿はいまどきのキラキラ女子。それがハーネスを装着すると一変。そびえ立つ15mの壁を、重力がないかのようにすごいスピードで登っていきます。クライマーとしては小柄な152センチの西田朱李さんは、たくさんの壁を乗り越えてきました。新時代のアスリートらしく、上手に息抜きをしながら、いまも自分で決めた壁を登り続けています。

登りきったときの達成感がサイコー!

(写真の)この壁に魅せられて入学した幕張総合高校を(取材の)1週間前に卒業しました。小学生の頃、この壁に初めて挑戦したときは上まで行けなかったけれど、いまでは練習で1日30本くらいは登っています。

クライミングの魅力は身一つで登っていく達成感。始めたばかりの頃はどんどん上達していくし「ずっと登っていたい!」って夢中になりました。

中学校3年生のときアジアユース選手権で優勝したんですが、そのときは本当にびっくりしました。予選5位通過だったので、決勝はわたしから。あとに登った格上の選手たちがわたしより低い場所で落ちていくのを見て「え? 嘘でしょ」って感じで。初めての大きな大会でしたし、決勝に行けただけで最高の気分だったんです。

その後スランプに陥り、クライミングを辞めたいと思ったこともありました。でも登っていること自体は楽しくて、ギリギリの気持ちで頑張ってきました。いまは結果がついてきてホッとしています。

15mの壁を30本も登るアスリートにはすこし小さく感じるお弁当。身体が軽い方が有利なクライミングは、筋力をつけつつもシャープな身体を維持するためにウエイトコントロールも重要。

上手に息抜きしてストイックになり過ぎないように。

練習は週5日、平日は4時間、日曜日は6〜8時間ほど。週2日のオフの日は軽い筋トレやストレッチをするくらいでクライミングから離れ、友達とカラオケに行ったりしてリフレッシュします。大会前は、眠る前のイメトレでリラックス。緊張が和らぎます。

昔は量を食べるのが苦手だったんですが、いまは結構食べられるようになりました。好きな食べ物はオリーブと豚汁。でも、クライミングのことを全く気にしなくていいなら、とんかつが食べたいなぁ〜(笑)。揚げ物とお菓子は控えているんですよね。ただ、友達とスイーツ食べるのだけは止められない(笑)。食べた日は、夕食を抜いたりして調整しています。

食事制限のコツは、できるだけ食べ物のことを考えないこと。自分へのご褒美も食べ物以外にします。例えば、もう解散しちゃったんですが、韓国の“Wanna One(ワナワン)”っていうアイドルグループが好きなので、彼らに会いに行ったりとか(笑)。

練習場までは車で約2時間。帰ってから食べると遅くなってしまうため、帰宅中、車中で食べる夕食用にお弁当をつくっている。お母さんと二人の車のなかは練習後にホッとできる時間。

予想外のムーブで観客を沸かせたい。

クライミング選手としては小柄な方。手足の長さにビハインドがあるので、次のホールドまでの距離が遠いときは、普通の人はやらない動きでカバーします。例えば、身体を柔らかくして手の横にかかとを乗せて足がかりにしたり、足をホールドじゃない壁部分に押し付けて摩擦で身体を固定したり。怖がらずに飛ぶことも意識しています。
そんな風に、選手の特性によって登り方がすごく違うので、東京オリンピックではそんなところに着目してみてもおもしろいですよ。

春からは順天堂大学のスポーツ健康科学部で勉強します。クライミングを科学的に分析して、どこに力を入れると疲れないか、どこに足をかけるとスムースに動けるか解明したい。ゆくゆくは指導者になりたいんです。

毎日クライミングに熱中できるのは、サポートに徹してくれる両親のおかげ。マイペースなのでいつも怒らせっぱなしですが(笑)、何も隠さずに話せる親子関係でとても心強く感じています。

カードを渡すと、ペンに迷いなくお母さんへのメッセージをサラっと書く朱李さん。さすが地上15mで平常心をキープできるクライマー、ハートが強い。

※2019年4月 公開