vol.10スポーツクライミング
[前編]

西田朱李さん(18)千葉県山岳連盟所属増美さん

東京オリンピック・パラリンピックの正式競技に選ばれ、テレビなどで目にする機会が増えてきた「スポーツクライミング」。ときに垂直以上の角度にもなる巨大な壁に張り付いて、スパイダーマンのようにスイスイと登っていく姿はすごい迫力。観客を大いに楽しませてくれます。そんなアクションスポーツで世界を目指しているのが、今回登場する西田朱李(しゅり)さん。152センチの小さなカラダに隠されたパワーの秘訣についてインタビューしました。

運命の出会いは突然に。

クライミングを始めたのは、本当にひょんなキッカケでした。
家族でマザー牧場に遊びにいったとき、簡易のクライミングウォールがあったんですよ。そこで遊び始めたら小学校3年生だった朱李が夢中になって離れなかったんです。それで翌週、登山用品店でホールド(クライミングの際使う手がかりや足がかり)を買ってきて、壁に設置して、ロフトまで登れるお手製のクライミングウォールを作りました。

親の対応が素早いですか? 確かにそうですね(笑)。朱李は喘息持ちだったので、体質改善のために、興味をもった運動は思う存分させてあげたかったんです。

当初は月2回、習志野で開かれる練習会に参加していましたが、動きも自己流でしたし、あくまで遊び。小学校5年生の6月にコーチに言われて受けたテストに合格して、千葉県のユースクライミングクラブに入ったところから、選手として本格的に練習し始めました。

ミニトマトが少し苦手な朱李さん。そこで、お弁当に彩りを加えるために赤ピーマンをよく使う。女の子らしいカラフルなお弁当に食欲もアップ。

クライミングに欠かせない食事管理。

朱李はもともと食が細くて、ファミレスで一人前食べると戻してしまうこともありました。それで、小学校6年生の頃からコーチのもとで食べるトレーニングを始めました。
急に一食の量を増やすと負担が大きいので、1日4〜5食にして細かく栄養をとらせたり、練習場でコーチお手製の具だくさんスープを飲んで栄養補給したり。その甲斐あって少しずつ食べられるようになっていきました。

いまでも、お弁当をつくるときには、ひとくちでいろいろな栄養がとれるように白米に雑穀を混ぜたり、具だくさんの汁物を持たせたりしています。

成長が安定したら、今度は筋肉量を保ったまま身体をできるだけ軽くする必要もあります。最近では、千葉県が年に1度開催する、アスリートのための講習会を受けていて、大会前は夕食だけ炭水化物を抜いたりするなど本人が率先して食事コントロールしています。

好物のイチゴはたくさん食べてくれる定番補食。丸ごと1パック持っていくこともある。大好きなスター・ウォーズが描かれた愛用ボトルには無糖の紅茶を入れることが多いそう。

フラットな気持ちで見守る。絶妙な距離感。

他のアスリートの家庭とはちょっと違うかもしれませんが、うちはできるだけ親は真剣になりすぎないようにしているんですよ。
本人がやりたいことなのでサポートしていますが、それ以上の感情は入れないように。主人はもともと熱いタイプなんですが、いまはグッとこらえて裏方でサポートしています。

高校受験と身体の成長変化でスランプに陥ったときも、朱李のなかでクライミングが好きな気持ちとプレッシャーと持ち前の負けん気がせめぎ合い、泣きながら練習する日が続きました。そのときも、できるだけ淡々と見守っていました。親が熱くなりすぎるとぶつかっちゃうんですよね。

その甲斐あってか、高校2年でジュニアオリンピック大会に優勝し、高校3年で2連覇。いまは「とにかく楽しい」と言って登っていて、それが何よりも嬉しいです。

クライマーにつけられた命綱を握る役割の「ビレイヤー」を務めるお母さん。運動経験はゼロだったが、朱李さんとともにクライミングを学び、ビレイヤーとして成長してきた。

※2019年4月 公開